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季節の健康コラム

日本人に多い隠れ死因 動脈「壁」硬化

医学博士
植地 貴弘さん

心血管疾患発症リスクの一つ

一般に動脈硬化というと、細い血管に詰まりをもたらし、狭心症や脳梗塞を引き起こすタイプの「アテローム性動脈硬化」を指すことが多いのですが、最近では、大動脈を中心とした弾性動脈の動脈壁が弾力性を失って硬くなるタイプの「動脈『壁』硬化」が注視されています。
 心血管系疾患は、日本の死亡原因の第2位(2016年 人口動態統計)、世界では第1位の死亡原因であり(2017年 世界保健機構)、これまで喫煙、高血圧、糖尿病との関連が指摘され、多くの大規模疫学研究が行われてきました。これらの因子と独立して、心血管疾患の発症リスクとして、この動脈の「壁」の硬さが重要であることが明らかとなり、今注目されているのです。

健康な動脈「壁」との違いは弾力性

動脈「壁」の硬さは、「動脈スティフネス」といわれ、「血管年齢」という言葉で表現されることもあります。心臓から押し出された動脈血は一定のリズムを持ち、波のような形で動脈へ流れていきます。この波形を「大動脈脈波」と呼び、脈波が動脈を通って手や足に届くまでの速度を脈波伝導速度(PWV/Pulse Wave Velocity)と呼んでいます。

 健康な動脈壁(動脈スティフネスが低い)は、弾力性があるので脈波はゆっくり伝わり、より血管が脆弱な脳や腎臓などの末梢臓器に、心臓の拍動性成分が伝わりにくいようにクッションの役割をすることができます。一方、動脈硬化で硬くなる(動脈スティフネスが高い)と動脈壁の弾力性がなくなり、脈波が速く伝わるため、心血管疾患の発症に悪影響を与えてしまいます。
 動脈スティフネスの指標として、上腕と足首に脈波センサーを当てて計測する上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)が日本国内で広く利用されており、多くのクリニックなどで測定することができます。動脈硬化は、症状が出たときにはすでに重症化していることが多いため、手遅れになる前に血管の状態をチェックすることが重要となります。かかりつけ医で測定することもできるかもしれませんので、相談してみてはいかがでしょうか?

有酸素運動で予防

ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動を習慣的に行うことで、加齢に伴う動脈スティフネスの進行を抑制、改善できることが知られています。また、有酸素運動は動脈「壁」硬化が進行する前から行うと、より有効となります。少しずつ暖かくなってくるので、外に出て体を動かすようにしてみませんか?